2019年1月15日火曜日

Samsung Galaxy Book 10.6

Samsungの2-in-1 (デタッチャブル)なWindows PCです。日本だと法人向けに展開されており、12インチモデルが(なぜか)コストコ専売なことでも話題になりました。

特に注目していたわけでもなく、eBayで別の機種の情報を漁っていたときにたまたまYou may also likeでサジェストされて、そういえばあったなあと思い出した機種です。第7世代 Core m3 (Kaby Lake)に4GB/128GB (※12インチモデルはi5/8GB/256GB)で、送料込みでだいたい5万円も出せば買える、リーズナブルな端末でした。

Windows以外に、Google版Chrome OSの導入にもトライしてみたので紹介していきます。

ざっくりとした紹介

10.6インチモデルは1920x1280px FHDのLCD(※12インチモデルは2160x1440px FHD+のOLED)ディスプレイを搭載していて、本体下部のPOGOピンでキーボードと接続するようになっています。画面比率が3:2なことも特色ですね。

外見はいかにもGalaxy然としたデザインで、質実剛健な印象です。ブランドロゴがSAMSUNG表記なのは日本向けモデルでは珍しいです(※Samsungは日本向けモデルのほとんどのブランドロゴをGalaxyで統一しているので)。

SamsungのiPad Pro対抗機種としてはAndroidタブレットであるGalaxy Tab S4のほうが著名ですが、Galaxy BookもWacom EMR方式のS-Penを採用していて、OS違いの姉妹機種的な立ち位置にあります。また、2-in-1なので最初からキーボードカバーが添付されているのも特徴的です。なお、日本向けモデルでもUS-ASCII配列のキーボードが添付されています(JIS配列の設定がありません)。

キーボードの角度調整はSurfaceのような無段階調整ができる方式ではないので、磁力が発生する40/55° (12インチは40/53/60°)の位置で2/3段階決め打ちです(※10.6インチも非公式ながら3段階の調節は可能ですが)。

これが最も浅い角度。

通常はこの角度で使う感じかなと思います。

マグネット部分を逆に折り返して地面側にベタ付けすると、非公式な深い角度が実現できます。

ただ、Surfaceのようにキーボードに角度がついたりする機構がないので、キーボードは常に机にべったりと平面付きになります。

その代わり、キーボードの打鍵感はこの手の2-in-1には珍しく良好で、Fn-右CtrlキーでApplicationキー(右クリックメニュー)になったりと、細かな使い勝手に配慮されています。Applicationキーは省略されがちなキーなので、これがあることでの操作性向上はかなりのものです。キーボード裏にペンホルダーが貼り付けられるよう、小さなくぼみがあるのも地味に便利。キーボードバックライトがあればより親切だったかなとは思いますが、変則的な配列もなく快適なキーボードだと思います。

ちなみに、10.6インチモデルはOSにWindows 10 Proを搭載していますが、12インチモデルはなぜかHomeになります。

気になる入力デバイスの接続方式は……?

昨今のPCは、キーボードやタッチパッドの接続方式によって、他にどんなOSが動かせるのかが決まってきます。内部的な接続がUSBやPS/2だとよいのですが、HID over I2Cだとわりと絶望的です。Windowsのデバイスマネージャで確認してみる限りは、キーボードとタッチパッドはUSB接続っぽいですね。謎のI2Cデバイス(タッチパネルやデジタイザ類?)も存在しますが、全部が全部I2Cというわけではなさそうです。

他のOSを動かすにあたって立ちはだかる問題

ストレージがeMMCです(SamsungではなくSK Hynix製)。SATAやPCIeではないので、ドライバを持っているOSでないと動かないと思います。素直なハードウェア構成だとは思うのですが、ここだけが残念なところですね。OSX86は絶望的。

例えばCloudReadyは、Surface Goのときと同じWi-Fiドライバの問題があり(※同じQCA6174です)、eMMCの読み書きもちょっと怪しくて、インストールが完了できない状態でした(※末尾のほうで他のディストリビューションでのインストールを解説しています)。

GPartedを使おうとLive USBを使うとブートできなかったり、Ubuntu 18.04 LTSなら行けたりと、ちょっと相性もあるっぽいです。

EFI設定画面はタッチにも対応していて、Secure Bootの詳細な設定もできるようになっているなど、かなり作り込まれています。

その代わり結構融通が利かなくて、USBからの起動を常に優先させるようなことができません(厳密にはこれがEFIとしては正しいのですが)。毎回、そのたびに起動時F2キー連打でEFI設定画面に入り、boot orderを設定する必要があります。

デュアルブートを組もうとしたりLinuxをブートしたりすると、VESAドライバが謎の挙動をして、縦画面になるのはまあいいのですがモノによって右が上になったり左が上になったり、一定しません。Windowsのインストールも縦画面になります。

気を取り直してWindowsの設定

いろいろ試してはみたのですが、この端末では主にWindowsと共に生きていくことにしました。

S-PenはつまりはWacom Feel Driverが使えるので、Wacom Components Driverを導入するとよさそうなのですが、実際にはうまく動きません。Surface用のWintab x64ドライバを導入してやると、PhotoshopやCLIP STUDIOなどで筆圧が使えるようになります。

Adobe CS6やOffice 2016など、いつもどおりのセットアップを行って平和に使えるようになりました。OSにこだわりはないとは言えど、使えるのならPhotoshopもExcelも使いたいわけで。

Samsung Update』という、ドライバやファームウェア類のアップデートツールがあるのですが、これが初期導入されていません。なので、別途ダウンロードして入れてやる必要がありました。ストアの説明には〝Windows 10に対応していない〟と書かれていたりして、よくわからないけどとりあえず動いてはいます。

このツール、ドライバ類を一括導入できてWindowsをクリーンインストールしたときに絶大な威力を発揮しますし、他社のPCだと初期テーマは二度とダウンロードできないことが大半だと思うのですが、そこまで含めてインストールすることができます。プリインストールのSamsung製アプリケーションも導入できます。他社も見習ってほしい。

ちょっと癖のある(?)充電周りのこと

USB-Cなので当然PDで充電ができるのですが、純正ACアダプタはPD対応ではありません。ふつうに9V/2Aの急速充電器のようなものが付属しています。

Qualcomm QuickChargeでもないし、LenovoやDellなどのタブレットに付属しているような9V/2Aの充電器だと給電はされるものの充電されないし、ちょっと独特の癖があるっぽいです。

あと、このUSB-Cポート、どうも内部的にはUSB 2.0であってUSB 3.0 Gen.1ではない気がしますね。USB 3.0 Gen.1のドッキングアダプタをうまく認識しませんでした。

追試: FydeOSが案外頑張れた

CloudReadyに買収されてしまった『Flint OS』からforkされた『FydeOS』という中国のChromium OSディストリビューションが、eMMCをものともせず割と頑張っていました。Windows側でNTFSパーティションを縮小し、空いたスペースに適当なパーティションを作っておいて、そこを指定してインストールしてやる感じです。

  • https://fydeos.com/

中国国内ではGoogleサービスが使えないので、アカウント周りが独自のものになっています。これを使わず、Google Syncを使うためのworkaroundがXDAにありました。

  • https://forum.xda-developers.com/hardware-hacking/chromebooks/fydeos-google-sync-using-fydeos-account-t3872442

途中、ファイルの編集に vi を使っていますので、vimの使い方がわからない人は調べてください。以下、ざっくりと日本語で(そこそこ)わかりやすく手順を記しておきます。

  1. ctrl-alt-Tを押してターミナルを開き、shell と入力してシェルに降りる。
  2. sudo su してパスワードに chronos と入れ、su になる。
  3. mount -o rw,remount / する。
  4. rm -r /etc/chromium/policies/managed/* する。
  5. vi /etc/chrome_dev.conf し、 --fyde で始まる行を # でコメントアウトする。
  6. ↑のファイルの末尾に --google-account-enabled を付け足して保存する。
  7. Chromiumでシークレットウィンドウを開き(← 重要)、chrome://flags を開く。
  8. 検索ボックスに "support secondary" と入れて、出てきた "Support secondary accounts for Sync standalone transport" を有効にする。
  9. 再起動する。
  10. ログイン画面で他のユーザーを追加できるようになっているので、Googleアカウントでログインする。

ここまでやると、ログイン後にPlay Storeのインストールでコケるので、ちょっと小細工をしてPlay Storeを導入させます。

  1. 上の手順の 1~3 を実行する。
  2. vi /etc/chrome_dev.conf し、先ほどコメントアウトして # --fyde になっているところの # を外す。
  3. --google になっているところを # でコメントアウトして保存する。
  4. reboot で再起動する。
  5. Googleアカウントでログインすると、OS側がPlay Storeを導入してくれるのでそれを待つ。
  6. 再び上の手順の 1~3 と 5~6 を実行する(要するにコメントアウトを逆にして戻す)。
  7. reboot で再起動させると、Play StoreとGoogle Syncが両立した状態になっている(はず)。

これで、かなりふつうのChromium OSっぽく使えるようになるので、よかったですね。

追試2: Pixelbook版Chrome OSを入れてみた

インターネット上を漁っていたら、Chromebook用のGoogle純正Chrome OSを汎用PCに導入する、『Chromefy』というworkaroundがあるのを見かけました。

Chromefyについて、ソースを読んだ限りでざっくりと説明すると、Chromium OSのディストリビューションからカーネルを抜き出し、Chrome OSの復元用バイナリからディスク構造を抜き出し、ついでにいくつかパッチを当ててインジェクションしてキメラ合成した復元用イメージを吐き出す(もしくは直接書き込む)、というような仕組みになっています。

つまりは、カーネルがブートさえしてしまえば上に乗っかるものはだいたい何だって大丈夫というLinux文化のよいところを活かしたhackのようです。

まあ、わかってしまえば自分でもできそうだったので、ArnoldTheBatsのChromiumビルドと、Pixelbookの復元用イメージと、それらの起動のインジェクション用にClover EFIを用意して、やってみました。

Chrome OSの復元用バイナリは、端末のチップセットやプロセッサの世代が同じものを選んだほうが良いようなので、構成が似通っているPixelbook (eve)のものを選びました。構成に関しては、Chromium OSのページにリストがあるので、ここから近いものを検索してください。

結果、起動に時間はかかるものの(※通常のChromebookのように起動が一瞬、ということがない)ブート自体には成功し、Pixelbookとして扱える(設定>Chrome OSについて にPixelbookの型番と認証が出る)状態で動作するようになりました。

Clover EFIの部分は、ぼくが使い慣れているからというだけなので、rEFIndやgrub2などでも代用はできると思います。bootchainとか考えるのが面倒なので、楽なCloverを使っています。

Chromium OSからは、カーネル(boot)と libs, modules あたりを引っ張ってきます。syslinux はESP領域(/dev/mmcblk0p12)へコピーしておく必要があるかもしれません。

Chrome OSからは、その他のコンポーネントをごっそり持ってきます。要するにChromium OSから引っ張ってくる以外の大部分はこのバイナリになります。

パーティションマップを合わせる必要があるので、Windowsやリカバリ領域はいったんサヨナラすることになります(前述のように、Samsung Updateからほぼ完全に戻せるので大丈夫です)。

マップを合わせてそれぞれの内容を書き込んだら、あとはClover EFIでsyslinuxを叩いてやれば勝手に起動してきます。

と、つらつらと書いてきましたが、普通の人はChromefyでイメージを作ってそれをUSBメモリに書き込んでインストールすれば良いんだと思います。そのほうが楽です。

なお、あとから他のOSを入れる場合は mmcblk0p1 が末尾にあるので、それをGPartedなどで縮小してやり(※最小でも32GB程度にしておくことをおすすめします)、追加で領域を作るなりして入れればよいはずです。

ただ、番号的には mmcblk0p12 まで使われているので、最初の4パーティションじゃなきゃ無理みたいな太古の流儀のOSは入らないと思います。

あと、ESP領域の前に結構大きめの未使用領域があるのですが、ここへESP領域を(前方向に)拡大しておかないと、Windowsがそこに予約領域を作ってしまってパーティション番号の順序が破壊されるかもしれません。ESP領域の前に1MBだけ未使用領域を残して拡大してやると、この問題は起こりませんでした(※Windowsが使うESP領域の容量は結構大きいので、そもそも拡大しないと書き込みエラーでインストールが完了しないという問題もあります)。

総評: 意外と頑張れる、携帯電話ナンバーワン企業が本気で作ったWindowsマシン

Windows PCでSamsungがどれくらいのシェアを持っているのかはよく知らないのですが、基本の部分が非常によく作り込まれていて好感が持てる端末です。不満を感じる箇所が少ない端末というのはなかなかなくて、その点においては合格点を与えられます。

eMMCの壁さえ乗り越えれば、素直なハードウェア構成なので様々なOSを起動することができます。ストレージとしては容量は充分であって、自分の好きな環境で仕事に向き合えるという、非常にビジネス向きな端末でした。

Galaxyのノウハウが様々なところに活かされていて、全体的な使い勝手を底上げしています。S-Pen絡みの部分などは代表例ですね。キーボードの出来も非常にいいし、取り回しのしやすい筐体サイズもあって、2-in-1のよいところを凝縮した感があります。Samsungが携帯電話の片手間にPCを作ったわけでなく、本気でPCを作っているのだなということを感じられました。もうちょっと軽くなると、さらにいいですね。