より正確には、YellowKiss(氏)単体ではなくYellowKiss x PROMISTVAPORで、pico rta development groupの『pico RTA V2』(以下、pico v2)である。──そんな薀蓄をたれたくなるのも、高級アトマイザーの世界ではこそ。
ちなみに、atto modも正確にはYellowKiss氏率いる『THE VAPE』ブランドでリリースされたものですね(pico v1も)。
18350人間として、atto modは以前に入手していたのです。しかし、どうせならアトマも合わせたくなるし、colibri v5がある以上は特に出番もなく眠っておりました。
たまたま今回ご縁があってpico v2を入手しまして、このような駄文を書き連ねております。ところでcolibri v6ももう出ているんですよね、わたし、気になります。
picoはこんな容器に入ってきます。日本的感覚ではこれはボトルガムですが、海の向こうでは薬の容器です。
pico v2自体は2017年8月の発売ですから、レビューとしては1年越しの最後発の部類に入ると思います。
外観
しかしこの一体感。やはりMODとアトマを合わせたくなります。
アトマイザーはpulse 22をある意味での完成形だと思っておりまして、この上でならどんなコイルも美味しく調理できる腕をひたすら1年間磨いてきました。18350は低出力ですからね、出せる煙量にも限りがあります。
──と、思っていたらpico v2はものすごい量のきめ細やかなミストを吐き出して、少々びっくりしている所存です。やはりお高い器械は考えられているものですね。荒々しい砂糖を噛んでいるような感覚の向きにはpulse 22をおすすめします。
pico (MOD)とpico (アトマ)を合わせて撮影、みたいなのやりたいけどpico (MOD)がないので悪しからず。22mmのMODも少なくなりましたね。
colibri v5と比べると、atto modは少々長いです。つまり、Vector RDAが載ったcolibri v5よりは、atto modとpicoの組み合わせは圧倒的に長い。colibri v4と比較すればさらに長いはず。
もちろん、atto mod側をエクステンションで18650サイズにすれば、ふつうのチューブMODみたいな長さになります。
ビルド試行錯誤
最初は24gaugeのNi80を単線で3mmを7巻して0.8ohmから試しました。美味しいけど薄い…… 金属臭もする。リキッドはお気に入りのVapewell Supply『BaeBACC』です。ストロベリーの酸味を主に押し出したテイストで、独特の甘さを出すのに割と難儀するリキッドです。
エアフローのコントロールは六角形の組み合わせで決まる、半固定式です。ぼくはMTL寄りの人間なので1穴で試しています。ほかに2・3・4穴の組み合わせが作れます。1より2のほうが好みには近いのですが、それだと大味になりがちで、atto modのボタンとpicoのロゴも揃わないんですね(※後述)。
味を濃くするためには抵抗値が低すぎるというのは誰しもたどり着く理論。サブオームの領域を脱出しましょう。26gaugeの…… この家に26gaugeのNi80はないのか! 仕方がないので24gaugeのまま2.5mmを9巻してみます。なぜか0.55ohm... サブオームはダメだってさっき言ったじゃん!! もちろん味はしません。ニコチンを吸っている感が得られるだけです。
サブオームとパラレルは禁止ね。単線だけで修行してください。
というわけで、26gaugeのKa-A1を3mm 7巻とスタンダードに。チャンバーも半時計回りに締めて準備万端。これでどうだ! と測ってみると1.2ohm。いいですね。 これで吸ってみると、ニコチンもうまく乗ってリキッドの香りも飛ばず甘みも感じられ、でもちょっとまだ薄いかな…… リキッド側も調合し直す必要があるみたい。
そうして、最終的にNi80で同じようなコイル(0.9ohm)を組んでみたら今度は金属臭もしないしふつうに美味しかったので(ちょっとニコチンの辛味が残る程度)、抵抗値にシビアな感じがあります。 逆を言えば、抵抗値さえ許容範囲内ならKa-A1だろうがNi80だろうが美味しく炊ける感じです。0.9~1.1ohmあたりが実用域でしょうか。
しかし、煙量が多いという問題は解決していなくて、いや解決できないのかもしれませんが、ツイストやマイクロスペースドなどを試す価値はありそうです。
そこで、Ni80の28gaugeをツイストしてみました。ツイストすると線長が増えるので抵抗値も上がるはずです。そして、コットンと接する面積が減るので、理論的には気化量も減るはず。
3mmで7巻きして1.05ohm。ちょうどいいくらいの値です。ウィッキングもだいたい感覚がつかめてきました。
これで吸ってみると煙量はほどよく抑えられ(まだ多いけど)、リキッドの甘みも感じられるようになってきたので、結構塩梅いいです。
しかし、ガンクの付き方を見るとコイルの端まで使い切られていません。巻数が多すぎるわけです。まだまだ改善の余地があります。
気になるほどではありませんが時たまスピットバックもあるので、ツイストに向かないのかも知れません。次は素材を変えてSS316Lを試します。舌がぴりぴりしてきました。
ちょっとここでサブオームを解禁させてください。巻数が多い以上、下げざるを得ませんので。
まずはふつうの単線で26gaugeを2.5mmで6巻き。コイル位置も下げてみます。0.58ohmと推奨値をだいぶ下回っていますがとりあえずテストケースということで。このビルドではいちごの酸味が出てきて、ただとにかくニコチンの角が立っていて辛いので中和する必要があります。
そこで、この線材はそのままに28gaugeのNi80を加えて緩めにツイストします。やはり2.5mmで6巻きして0.66ohmとまだだいぶ低いですが、今度はかなり味も濃厚でニコチンの量の加減だけで行けそうな雰囲気が出てきました。
味が濃くなったことには、2.5mmにしたことで熱が回りやすくなって、気化量が増えたというのが関係していそうです。酸味が出るのはSS316Lの特性なので、正常でしょう。ただ、コットンをかなりきつめに詰めないとジュルりますし、端のほうは削がないとドライヒットしそうです。 気になる煙量もそれほど多くなく、そういえばツイストでも緩めにすればスピットバックしませんでした。
熱も持つので炊き方としてはあまりおすすめできる感じではないですが、0.9ohmを切っていてもSS316Lを主軸に据えるとそこそこ味が出るようです。 ツイストする場合は緩めが良くて、味を濃密にしたければNi80を、甘くしたければKa-A1を、27-8gaugeでチョイスすればよさそうな気がしました。
最終的な高さはこれくらいです。これ以上下げるとショートしそう。セッティングとしては大体煮詰まりました。もうちょっと上げたほうが濃く味が出るように思います。
ビルドはやや難しいですが、そのぶん理詰めで探求する奥深さも感じさせてくれる畑があり、ちゃんと成功すれば味も出るのでよいアトマイザーだと思います。漏れの心配をほとんどしなくていいのもよいですね。 たぶん、もっとビルドが上手い人ならもっとポテンシャルを引き出せるのでしょう。精進したいところ。
ビルドに結構悩んで、ふだんは先入観を避けるため他の人のレビューなどをなるべく見ないようにしているのですが、2〜3拝見したら皆さんコイルを高めにビルドしているので、真似したら余計に味が出なくなって…… というのを繰り返したりしました。最終的には SAMURAI VAPORS の セージ さんのアドバイスが参考になりました。ありがとうございました。
実用感
まず、チャンバーが緩んでいるとデッキが奥に入りすぎてしまい、ポジティブピンは出ないしネガティブ側は接地しないし、当然電力が回らなくなります。なので、ビルドするたびちゃんと締めるクセをつけたほうがよさそう。とにかくデッキを突っ込んで反時計回りです。
ビルド自体は、逆さまにしてリキッドを漏らさずデッキを引き抜けるので、とてもやりやすいと思います。バーンがやりづらいというのはありますが。
PMMA製のタンク(2ml)は、要するにアクリルガラスなのでメンソールなどへの耐性もあり、リキッドをチャージすれば透明になるところなど、表情の变化を見せてくれて大変よいです。といっても筆者は茶色いリキッドしか入れないので、うっすら黄金色になるだけなのですが。
ジュースホールが上に4つ付いていて、使いやすい太さがあるのでリキッドチャージは非常にやりやすいです。トップキャップで蓋をしてしまえば漏れないのもよい。
ドリップチップもPMMAのDL用とMTL用の両方を買い足しました。チャンバーとチムニーはウルテムを。内部はデフォルトのPEEK材よりもウルテムのほうが美しさが際立つと思う。純正オプションがたくさんあってよいですね(※後述)。
なお、ドリップチップが結構熱くなるので、チェーンする場合はちょっと注意しないと唇をやけどします。MTLの宿命ですね。でもデザインの一体感は素晴らしい。
何よりも、制作者もこれを考慮してデザインしたのでしょう、atto modとの一体感が素晴らしいです。colibriとVector (やNector)の機能美も美しいけど、picoたちは実用美という感じ。
picoのヘアライン処理部とatto modの仕上げは同一になっていて、そこに2本挟まる光沢感を持った細いラインがよいアクセントになっています。
外側に出る部分の角はダイヤモンドカットされていますが、そうでない場所は本当にエッジが立っていて、指を何箇所も切りました。それもまた醍醐味という感じです。
こうして考えると、非常に贅沢に多種の素材を使っていて、ハイエンドアトマイザーなのだなという感があります。そして、それらの素材を使い分けることによって実用性の向上が綿密に図られているというのが、このアトマイザーのよいところなのだと思います。
意外と難しい、位置合わせの問題
atto modは制御基板のある“半メカニカル”なのでボタンがありますが、ボタンとpicoロゴを合わせるのがちょっとだけ難しいです(atto modのロゴと合わせるのはもっと難しい)。 1穴の状態ではちょっと行き過ぎている程度でインシュレーターの挿入ではまったく合わなさそうなので、2.5mm角くらいにメンディングテープを切って、MOD側の面に貼りました。これでぴったり(モノ同士にもよりそうですが)。
──と書いていたら、attoとpicoのロゴ位置を合わせるのが正しいのではないかというご指摘を頂いたので、テープを3箇所に増やし、末端側の2穴のエアホールの片側を爪楊枝で詰めて1穴にしてロゴ位置をむりやり合わせました。テープのほんの0.5mmで大きく位置が変わるので、位置合わせは根気との戦いです。
デフォルトPEEK材の色問題
これは主観によると思いますが、チムニーとチャンバーのPEEK材の乳白色の主張は結構激しいです。v1→v2でマイクロチャンバーでなくなったことによって、より激しくなったものと思われます。 リキッドの色にもよりますが色差が激しくなるので、そこだけ浮くような印象を持ちます。また、白は膨張色なのでより目立つのです。
前述のように、pico v2はウルテムのチムニーとチャンバーに換装することができて、それでかなり緩和できるので、予算が許すのであれば検討の価値はあると思います。
ウルテムは磨くと飴色になって、そこにリキッドを満たすと内部構造が全部透けて見えるようになります。ウィッキングやビルドの仕上がりなど見ることが出来るので、自己陶酔の世界に浸れるでしょう。
v1には社外品でステンレスのチャンバーがあり、その見た目がかっこよかったので、ステンレスのチムニー + チャンバーがあるといいなと思いました。
総評
価格から推察できるような非常にレベルの高い製品で、満足度は高いです。迷う理由が価格なのであれば“買い”なので買いましょう。
RTAは、毛細管現象でリキッドを引き上げるRDTAや力技のスコンカーとは違う、負圧によってリキッドが満たされるという性質を持った製品です。それを、いわゆるジュルりやドライヒットを抑えながら設計するのは大変な苦労があったと思われます。 この小ささに器械としての設計力のすべてが込められています。そういう魅力があります。
筆者はだらだらと吸ってしまうのを避けるため、一定量の供給しかできないRDAを好みます。pico v2は(ビルドが成功すれば)リキッドの旨味を凝縮して届けてくれるので喫煙感に対する満足度は高く、だらだら吸いを避けることができます。
ハイエンドに属するアトマイザーではありますが、基本的に単線でのビルドになるので、ビルド入門者にも向いているのではないかと思います。ビルドの難しさや面白さを全体的に教えてくれるデバイスです。提供品だから褒めているわけではなく、筆者もこれでまた勉強をしています。探究心のある方におすすめできると思います。