遙か昔、英国にPsion PDAというフルキーボード搭載のPDA端末があり、カルト的人気を博しておりました。2018年、その開発者たちが再び集い、クラウドファンディングで現代にPsionを蘇らせたのが、今回のGemini PDAです。
フルキーボードのキーコンセプトはそのままに、OSはAndroidとなり、折り畳み式で5.9インチ18:9 1080p液晶やLTE通信機能を搭載した異形のスマートフォンです。
このたびリンクスインターナショナル社が国内販売を開始させ、数量は少ないものの量販店の店頭でも買えるようになりました。
なお、キープコンセプトの後継機『Cosmo Communicator』がすでに発表済みです。興味のある方はこちらから。
背面LCDとキーバックライトの存在が大きく変わっていますが、それ以外は基本的に現在あるものへの上積みですね。
ざっと紹介
Gemini PDAの日本量販向けモデルはキーボードが英字配列で、リアカメラモジュールなどの拡張モジュールがいっさい付かないベーシックなものとなっています。本家クラウドファンディングのIndiegogoのほうでは日本語配列が選べたり、拡張モジュールを買うことができます。
PDAと名の付くモノではありますが、実際にはほぼ素のAndroid端末なのであまりPDA然とはしていません。フルキーボードがその名残を残すばかりです。
キーボード自体はメンブレンスイッチのメカですが、キーピッチを確保するために主要なキー以外は省略された形のものです。日本語入力にあたっては、字引き(ー)が独立キーでないのがもっとも大きなクセに感じるかと思います。あと、たぶん個体差があって、どっかのキーが渋いとかあると思います。
SoCはMediaTekのHelio X27 (MT6797X)となっており、VoLTEとeSIMに対応しています。10コアで4GB/64GBなので、ミドルレンジクラスの性能ですね。なお、ストレージはmicroSDスロットで拡張可能です(多少不安定なところがあるように思いますが)。あと、SIMスロットはmicroSIMなので、昨今のnanoSIM全盛の世にあっては変換アダプタが必要です。
本体左右に1基ずつUSB-Cポートがありまして、左側が充電兼用で右側がホスト専用です。充電はUSB-PDでは“できません”。通常のUSB充電でなければならないことに注意が必要です。
OSは、日本ではAndroidばかりがフィーチャーされていますが、Linux (Sailfish 3)がデュアルブート構成で導入されています。また、初期導入Androidは7.1.1 Nougatですが、8.1 Oreoへのアップデートが2019年の早期に行われる予定となっています。
Androidは日本語の夢を見るか
初期設定で選びさえすれば日本語環境ではありますが、Android標準リソースでない部分の翻訳が甘いなど、目を瞑るべき場所が多々あります。Google 日本語入力もデフォルトで入っていますが、画面をタップしてやらないとキーボードの入力が日本語にならなかったりします。出してくれているだけ偉い、という広い気持ちが大事です。
LCD densityを320くらいにすると20行くらい表示できるようになるので、より太古のデバイスっぽさが出てきます。標準だと408までしか設定できないので、USBデバッギングを有効にしてやる必要はありますが。
『ATOK for Android』を入れてやると、入力開始時の画面タップは必要なもののAlt-spaceで日英切り替えできるので、そこそこ快適な入力環境が得られます。ハードウェアキーボード接続時のソフトウェアキーボード非表示設定も正しく効きます。
やったこと、入れたもの
3M社のダイノックフィルムでボディスキンを作りました。カーボン柄ですが、あえて色は大きく変えないようにしました。3.5mmジャックに刺したストラップホールは『PluggyLock』です。これもクラウドファンディング産のプロダクトですね。普段は長めのネックストラップ(仮面ライダー EX-AIDのキャラクター商品)で吊ってカーディガンのポケットに入れています。
画面の保護フィルムは素材に若干悩んだのですが、あえてのペーパーライクフィルム(PDA工房さん)です。
『ATOK for Android』『JotterPad (Premium)』『OneNote Mobile』『FX File Explorer (Pro)』は、Android端末ならだいたいなににでも入れるくらい必須プロダクトです。これらのクラウド同期(※特にJotterPadとFXはDropboxをローカルのように扱えるので必携)は、筆者がよく扱うテキストファイル(Markdown形式)のハンドリングに大変便利です。
『App Bar』という独自ドックが実装されていて、どの画面にいてもAltキーを単押しすれば画面下部から出現します。ここに10個のアプリを登録できるので、複数アプリ切り替えの際に便利です。なお、Fn-Aでアプリ履歴・Fn-Dでホーム画面へ行けます。EscはBackキーを兼ねます。Fn-Rはスクリーンショットです。これらがハードウェアキーで実行できるのは、よくAndroidの使い勝手を研究しているなと思いました。
ちょっと独特な、通知LEDの設定
LCD背面にはフルカラーで5つもあるガラケーのような通知LEDが付いていますが、これの設定には『LEDison』という独自アプリを使います。ここで設定しないと通知があっても何も光りません。
プリセットの発光パターンがいっぱいあります。ここでは光らせて遊べるだけなので、右上の三点ドットから APP ANIMATIONS を選んで、実際にアプリを登録する画面へ飛びます。
画面上部で通知へのアクセスをONに設定してから左下の [ADD APP] を押すと、LEDを設定したいアプリをチェックボックスで選べる画面が出るので、まずアプリを選んでいきます。
そして、個々のアプリごとにLEDのパターンと発光時間を設定してやれば、次の通知時からLEDが(ド派手に)光ってお知らせしてくれるようになるはずです。
総評
持ち歩きのできる長文執筆マシンとして、最低限度以上の快適さは保証されているので、携帯電話としてよりは小さいコンピュータとして評価すべきのような気がします。OSが何かとか、メモリやストレージがどうという評価軸で語るべき存在ではないです。
そういう意味ではオンリーワンの存在であり、ぼくの個人的な評価としてはGPD Pocketよりも評価が高いです。至高ではないけど孤高の存在です。とにかく最小限度の形で長文を書きたいという人には唯一無二のキーボードです。
開発者たちはきっと、この端末が現代のPDAとしてあるべき姿を何度も模索したはずです。その上で、キーボードありきで至った姿が、ストレスなく通信ができて自由なアプリが追加できるAndroid端末となったのでしょう。いわば携帯電話としての機能やPsionに酷似した姿はおまけであり、結果に伴う過程のひとつです。
Androidを積んだ副次的作用として日本語の扱いにクセがあり、万人向けではありません。しかし、ポケットに入るフルキーボード端末を夢見る人たちに選択肢を与えてくれたのがこの端末だと思います。荒削りですが、それを許容できる人たちにおすすめできる端末です。